Introducing… Ron Regé Jr.

タラ・ジェイン・オニール&二階堂和美のジャパン・ツアー2011まで3週間。さて、その準備をしながらスウィート・ドリームス・プレス編集部は1冊の小冊子をつくり始めました。ロン・リージー・ジュニアというアメリカ人コミック作家/ミュージシャンについての本です。

というのも、ことし1月にスウィート・ドリームスもお手伝いした「ウォーマーズ~小さな冬の展覧会」というグループ展を企画したヴィクトリア・ロングさんが、その出品作家のひとりだったロン・リージー・ジュニア単独の作品展を今夏開催することが決まったのです。で、そのカタログ代わりに、彼の作品を知らない人でも楽しく読んでもらえるような本をつくろうか、と、こうなったわけでした。

そういえば以前、ヴィクトリア嬢に会ったとき、「実はすごいことがあるの。まだ言えないんだけど」と耳打ちされたことがありました。「えっ、何? 何なの?」。「いえいえ、まだ秘密」。うーむ、何だか思わせぶりだなあ。そのときは何度訊ねてもニコニコ微笑むだけで、きっとボーイフレンドでもできたのかななんて下世話な邪推をしていたのですが、ふたを開けてみれば、それはこのロン・リージー・ジュニアの展示ができそうなのということだったのでした。

とはいえ、このロン・リージー・ジュニアさん、日本では余り知られていないようです。実は僕も最近まで彼の作品をちゃんと読んだことはありませんでした。でも、その独特な画風は以前から見覚えがありました。多分『ビリーバー』誌のページか何かのレコードのジャケット、もしくはどこかのウェブサイトで見たのかもしれません。可愛げのあるキャラクター造形や夢のような景色。また、アウトサイダー・アートを思わせる描きこみの多さも強く印象に残っていました。

その後、ヴィクトリアさんに『Skibber Bee-Bye』という作品集をいただいて、そこから彼のことをいろいろ調べはじめたわけですが、そのロン・リージー・ジュニア、アメリカでは既に確固とした地位を確立している人気コミック作家とのこと。その『Skibber Bee-Bye』の裏表紙には、米コミック界の鬼才、クリス・ウェアが以下のような賛辞を寄せています。

「ロン・リージー・ジュニアは、ひとりのアーティストとして、漫画メディアの歴史上、自身の風変わりな衝動と霊感に相応しいコミックを再考案しただけではなく、そこに異常な変幻自在の感情的エネルギーを吹きこみ得た数少ない作家のひとりである。私にとって彼は疑いなく偉人のひとりである」

また、ロン・リージー・ジュニアは才媛ベッキー・スターク擁するラヴェンダー・ダイアモンドのメンバーとしても活動中。さらにその音楽キャリアを振り返ると、スワーリーズを振り出しにトローリン・ウィズドロワルってなバンドにもいたらしく……。お、スワーリーズだったら持ってるぞ。トローリン・ウィズドロワルってのも、ローファイが流行ってたときに聞き覚えがあるな……と、こういうところからも身近に感じられていったのでした(さらに下のインタビューではカラテのジェフ・ファリーナジョディ・ボナーノの名前も出てくる)。ちなみに下はスワーリーズが2003年にリリースしたアルバム『Cats of the Wild, Volume II』。ロン・リージー・ジュニアがジャケットのアートワークを手がけています。

それではここで、挨拶状代わりにロン・リージー・ジュニアのインタビューを1本ご紹介しましょう。制作中の小冊子の参考資料としてこちらを訳出してみたものです。ともあれ、ロン・リージー・ジュニアの小冊子、完成をお楽しみに。今後も彼の紹介記事を幾つかアップしていけたらと思っています。

ロン・リージー・ジュニア:キュート・ブリュット

文●ポール・グラヴェット

(訳注:タイトルの「キュート・ブリュット」は、フランス人画家のジャン・デュビュッフェが発案したフランス語の呼称「アール・ブリュット(生の芸術)」に引っかけたもの。この言葉は英語でいうアウトサイダー・アートのことです)

ロン・リージー・ジュニアは、アメリカの最新ムーヴメントである「平和追求アーティスト」のひとりである。オーバーナイト・サクセスが彼の元に訪れたのは36歳のとき、その最良の時期に、彼はサイケデリアと擬似素朴派(ナイーブ・アート)/フォーク・アート、アウトサイダーの生々しさと漫画ならではの楽しさのハイブリッドである独自の「キュート・ブリュット(生のキュート)」スタイルで、『Yeast Hoist(イースト菌巻き上げ機)』などのコミックやグラフィック・ノヴェルを創り上げた。また最近の彼は、タイレノール(訳注:ジョンソン・エンド・ジョンソンが販売する頭痛薬)のアウチ!キャンペーン用に手がけたデザインやアクション人形(写真下)などの商業仕事や、『スピン』誌がベスト未契約バンドに選んだラヴェンダー・ダイアモンドでの音楽活動を通してより幅広い名声を得ている。

ちなみに名前(Ron Regé Jr.)の発音は「レゲエ」ではなく「フィジー」みたいに「リー・ジー」となる。彼は、ちょうどフリーランスの作家のように新しいコミックごとに異なるアプローチをしてきた。脚本とアイデアは丸ごと彼の潜在意識からやってきたものであることも多く、ブエナヴェンチュラ・プレスから発行されたリージー12作目の『Yeast Hoist』は、スケッチブック的観察眼と日々の生活を詰め込んだコミックではち切れんばかりの作品に仕上がった。

ロードアイランド沿岸部にあるナラガンセット・グランジ・ホール(ミュージシャンのジェフ・ファリーナとジョディ・ボナーノが共有するアーティスト・スペース)での2年間のレジデンシー(訳注:アーティストを一定期間招き、その場所に滞在しながら作品を制作させること)を終え、彼は近年ロスアンジェルスに居住している。そのグランジ・ホールには大きなスタジオ・スペースが幾つかあって、ジェフとジョディは、毎年、特定のプロジェクトのためにこういった環境を必要としているアーティストに、居住/制作スペースを安価に提供しているのである。こうして彼は吉な13番目の『Yeast Hoist』をドロウン&クオータリー社から発行する。ツートンカラーの9章から成るこの潜在意識的自叙伝コミック/ドローイング選集は、物言わぬ表情豊かな夢景色から、平和への願いについてのずる賢いおかしみまで幅広く網羅されることになった。

彼の絵と華麗にレタリングされた言葉はゆっくり味わうべきものである。ぶるぶると震え、才能きらめき光輝く、これらの作品はあなたの目を見開かせるに違いない。

以下のインタビューは2006年4月11日、メールで行なわれた。

ポール・グラヴェット:今日「幸福追求アーティスト」にはどのような役割や影響があるとお思いですか?
ロン・リージー・ジュニア:なんてすごい質問! 答えるのが難しいな……。思うに、僕らは自分たちがやっていることを、平和的に、つまり平和のセンスってものを持ちながらアプローチできるんじゃないかと思ってる。僕らが手本となって導いていけるんじゃないかな。多分ね。僕は競争を好まないし、もともと対立的な人間でもない。何かを声高に叫ぶことは嫌いだし、大声を出すのも好きじゃない(だから僕はこういう静かなアートフォームを通して話しかけるのが好きなんだ)。メディアの多くが狭量で意地悪、自己中心的だから、僕らみんなで違うアイデアを前に進めていけるんじゃないかなと。で、僕らが持ち得る影響力? それはわからないな。そういうことを考える頭がないんだ。僕は大体、ジョンとヨーコの作品や精神に負っているだけなんだ。自分たちが欲したら、そこに平和があるのさ。もし僕らがそう考えれば、もし僕らがそういう生を生きれば、ね。誰もがどこでも、それこそが自分たちの欲しいものなんだと言っているけど、未だに争いが絶えないのは何故なんだろう? もうやめるべきだよね。平和はここにある。僕らが地球を楽園にすれば、その通りになるんだよ。

ポール:他の表現形式ではなく、コミックのどういうところがあなたを魅了したのでしょう?
ロン:僕がコミックを好きなのは、とてもスローで静かなメディアだからなんだ。それに直接的にパーソナルなところも気に入ってる。文章以上かもしれないね。作者と読者の結びつきもとてもダイレクトだし。僕の言葉を読むとき、読者は僕の手が直接描いたものを見ているわけだからね。それはすごく素敵なことだよね。絵本もずっと大好きだった。平面の視覚アーティストとして、時間をかけてつくったものを誰かにレジャーとして試してもらえるなんてすごく幸せなことだよね。壁に飾った自分の作品を強制的に見てもらうよりもずっといい。絵物語自体、最も古くからある全世界的な人間の表現形式だと感じるよ。

ポール:コミック制作と音楽活動はどのように結びついているのでしょうか? それともどのように違いますか?
ロン:僕の個人的な経験の中では、そのふたつは全く結びついてないんだよね。だからこちらはこちら、あちらはあちらとしてやっている。でも、音楽と音楽の制作プロセスにまつわるコミックをつくるのは大好きだよ。可能な限り僕の本に音楽をつけるのも好きだしね。これって矛盾してる? いや、そうは思わないな。

ポール:制作前に、どのぐらい構想を練るんですか? また、どの程度、直感や潜在意識というものを信頼していますか?
ロン:僕のコミックは、完全にネーム(編注:マンガを描くときに、どういうコマ割りにして、どのキャラクターにどんな台詞を喋らせるのかを書き込んだもの)を固めてから描いてるんだ。ページのサイズに合わせて作品やコマの大きさを調整する以外、元々のネームを変えることは稀だね。まだ描くに至らない脚本が何百ページ分もあってね。真っさらな白紙を前に座ってひとコマずつ描いていくなんて、僕にはできないようなんだ。どうしたらそんなことができるのか想像もつかないよ。でも同時に、潜在意識で脚本とアイデアが完全に出来上がってることもある。『The Awake Field』で描いたことの多くは、ひとつの独立したアイデアとして、完全に固まった形で思いついたものなんだ。

ポール:読んで理解してもらうため、難解なコミックほどつくり甲斐があるのはどうしてでしょう?
ロン:うーむ。あるアートが学習や考察してからでないと味わえないのも同じ理由なのかな? 何故何か考えるんだろう? コミック界のそういう疑問には疲れちゃった。標準的なフォーマットに則って創作をする人もいれば、そうじゃない人もいる。僕は、いろんな理由でつくられたさまざまな言葉入りドローイングが好きなだけなんだ。よくこういう質問をされて、それで考えちゃうんだよね。僕の作品を「難解だ」なんて感じる人って、ほかの20世紀美術を見たことないのかなって。これってピカソにキュービズムの絵を見るべき理由を訊くようなものだよね。100年前にこういう疑問は解決されたんじゃなかったっけ?

ポール:あなたの作品にはキュートさと野蛮がありますね。こういうふたつの対照的な傾向をあなたはどうやって同居させ得たのですか?
ロン:わからないな。最終的にそうなったというだけでね……。最近は、自分の作品の暴力的な要素は減ってきているように思うし、今はほとんどないかもしれないけどね。でも、僕の作品ってキュートかな? みんながそう言うんだよね。自分ではそう思わないし、そうしようと思ったこともないんだけどな。

ポール:2年間のレジデンシーで得たものは? その経験が『The Awake Field』にどんな影響を与えましたか?
ロン:ロードアイランド南部で過ごした時間は、僕にとってとてもスペシャルなものだった。ゆっくりできたし、自分の作品だけに集中できたからね。平和で孤独、内省の時間をようやく持てたんだ。以前はいつも急かされていたし、生活のための仕事もしなきゃいけなかった。今は、かろうじて自分の作品で生活できるようになったけど、それもグランジ・ホールでの時間がおかげなんだ。最新刊(『Yeast Hoist 11』)を完成したのもあそこだし、ほかにもネット用にコミックをたくさんつくれた。『The Awake Field』はあの場所と、グランジ・ホールで過ごした時間に捧げたものなんだ。

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