Interview: Sad Horse

ポートランドの音楽フェス「PDX POP NOW! 2014」の告知映像。
エリザベスのドラムを叩く後ろ姿もチラリ

 昨年の7月に投稿された記事にサッド・ホースのふたりへのインタビューを見つけたので、拙いながらも簡単に訳してみました。地元ポートランド夏の名物フェスティバル「PDX Pop Now!」に出演した際に収録されたインタビューのようです。いかにも夏フェスって感じのカジュアルな内容ですが(記者もそんなにサッド・ホースについて詳しくなさそうな様子)、オール・エイジのショー(アルコールを提供しない会場でやる代わりに未成年者も入場できる公演)やポートランド発祥のロックンロール・キャンプ・フォー・ガールズのことにも少し触れています。もし気になることがあったら、ぜひ4月5日から始まる来日ツアー(日程はこちらを)で彼らを捕まえて訊いてみてください。そのとっかかりのひとつとしてもなかなか面白い種のあるインタビュー記事です。






インタビュー:サッド・ホースが「PDX Pop Now! 2014」で話してくれたバンドの名前のこと、ベーグルのこと、偽造IDのこと。

取材・文:アーロン・シャープスティーン

 僕が幸運にもインタビューできたふたつ目のバンドは、ポートランドの街を越えライブ・バンドとして活躍するサッド・ホースだった。3分を決して越えない痙攣性の巧妙な楽曲、そぎ落とされた装備とサウンドで、いま幅広い音楽ファンに受け入れられているこのバンド。ふたり組なのでインタビューで捕まえやすいという利点もある。というわけで、我々は『PDX Pop Now!』フェスのステージ横のビア・ガーデンであれこれと話してきた。

このイベント用にチェーンメール風の企画をやってるんですが、昨晩インタビューしたスペルキャスターからあなたたちへの3つの質問を預かってきてます。すみませんが、その質問から取材を始めさせてもらっもいいですか。最初の質問はこれ。なぜ君たちの「馬(ホース)」はそんなに「悲しい(サッド)」んだい?
ジェフ・ソール:この取材、もう録音してるの?
ええ。
エリザベス・ベナブル:消化不良? わかんないけど。
ジェフ:このバンド名にはうんざりしてるんだ。時間を遡って名前をつけ直せたらいいんだけどね。頭文字だけに変えようとしたときもあるんだけど……。
エリザベス:「SH」って。
「SH」ですか……。
ジェフ:うん、でもパッとしないもんね。こないだのカセットはそういうこともあってバンド名を入れずに頭文字だけにしたんだけど(編注:2013年にリリースしたカーリー・カセットからのテープ。サッド・ホースではなく「SH」と表示してある)、そのせいであんまり売れなかった。
それはお気の毒に。では第2問目、あなたが以前ベイ・エリアのファックってバンドにいたことを彼らに伝えたことからの質問です。なぜベイ・エリアからポートランドに移ってきたんですか。どうしてポートランドを選んだのか。決めたのは自分で?
ジェフ:大都市に住むのに疲れちゃってね。ポートランドの街の大きさは完璧だと思う。興味を持ってもらえるぐらい十分に大きくて、しかも大き過ぎることもない。今でもまだそうだよね。大都市では避けられない問題に日常的に頭を悩まされることもない。元々の都市計画がうまかったんだろうね。
確かに。では、大事だったのは「サイズ」ということ?
ジェフ:そうだね。それに政治面も。
リベラルだから?
ジェフ:ああ。ただ、意に沿わないのは気候だね。僕はサンディエゴで育ったから、あそこの天気は完璧だった。でも、もうこっちに来て10年も経つからなあ。
あなたもどこかから移ってきたの?
エリザベス:私が生まれたのはインディアナ州。でも、あちこち引っ越してきたから。
え! インディアナのどこ?
エリザベス:テレホートよ。
僕はイリノイ州のペオリア生まれなんだ。
エリザベス:ペオリアね。知ってるわよ。
セントルイス・カージナルスの帽子を被ってるのは皮肉じゃなくて、本当にカージナルズのファンだからなんだ。
エリザベス:でしょうね。
クール。それではスペルキャスターからの最後の質問。あなたが好きなクリーム・チーズは? 彼らが聞きたいのはきっと味のことかな。ストロベリーとかハニーとか……。
エリザベス:プレーンが好き。オニオンかガーリックのベーグルに乗せて食べるのが好きなの。
ガーリック・ベーグルにプレーンのチーズを?
エリザベス:別にどんなベーグルでもいいわ。
でも、クリーム・チーズには何も入ってないのがいいんだよね?
エリザベス:ええ、必要ないわ。プレーンね。
分かった。では、まずはこの3問が終了と。あとでまた次のバンドのために質問を3つ考えてもらわないといけないけど、僕の質問も始めるね。今日サッド・ホースがステージでやった曲のどのぐらいがレコードで聴けるのかな。全部聴ける?
エリザベス:ええ、そうだと思うわ。
ジェフ:カバー曲以外は全部レコードになってるよ。さっき言ったSHのカセットからも少なくとも1曲やったね。
エリザベス:ニュー・モス・レコーズのコンピレーションからも1曲やったわ。
でも、ほとんどの曲は『Purple on Purple Makes Purple』に入ってるのかな?
ジェフ:そうだね。
クール。最初「どこでこれ買えるんだろう?」って思ったんだよね。LPで聴いた曲のようだけどそうじゃない感じもして。多分ライブだったから違う感じに聴こえたのかも。もちろん楽しめなかったってことじゃなくてね。でも、それがどの曲なのか分からなくて。ライブだとアレンジを変えてるの?
ジェフ:あのLPが出たのはもう2年前だからね。最近、久しぶりに聞き直してみたんだけど、すごくいいじゃないかと思ったよ。何曲かはライブのサウンドをうまく捉えてるし、オーバーダブした曲もある。でも、大体においてあの録音はシンプルなものだけどね。
エリザベス:私もそう思う。それに私たちって見る分にもすごく楽しめるバンドなんじゃないかな。ライブを見て、そのバンドの音楽性をさらに深く感じさせるバンドってそんなにいないじゃない? 私たち、ライブがレコードより魅力に欠けるようなバンドではないから。滑稽に見えるところもあるし、オープンだしね。


今まで2回か3回あなたたちのライブを見たけど、いつもすごく楽しませてもらってます。そういえばいつもいろんな感じのバンドと共演してるよね。対バンも、あえて違うサウンドのバンドを選んでるのかな。それとも、そのせいで嫌な思いをしたこともある? 「俺たち、なんでこんなバンドとやらなきゃいけないんだろう?」みたいな。
ジェフ:何も思いつかないな。
エリザベス:確かにそんな風に思うこともあるけど、そんなにないわよ。むしろ違う感じのバンドとやるほうが好きだしね。「共演も2ピースで、パンク・ロック・ガレージっぽいバンドをセッティングしましょうね」っていう感じの人は多いけど。
実は僕もバゲーラっていう男女ふたり組のバンドを思い出して、一緒にやればいいのにって思っちゃった。
エリザベス:でしょう? みんな同じようなグループ分けをしたがるものだもんね。それが自然だと思うけど。
ジェフ:ふたり組バンドと一緒にツアーに出たこともあるけどね。ドラムスにサラ・ランド、ギターにアンドリュー・プライス。アンワウンドにいたサラとアーヴィング・クロウ・トリオにいたアンドリューのハングリー・ゴーストと。
彼らって2ピースだったっけ?
ジェフ:昔はそうだったんだ。その後にベーシストが入ったんだよ。他にもふたり組編成のバンドとツアーしたことがあるけど、確かに編成が一緒だとセッティングも楽なんだよね。
ふたり組同士だとツアーも楽になるんだろうね。さて、少し話題を変えるけど、どのぐらいオール・エイジのショーをやっているのかな?
ジェフ:ほぼ毎年、夏になるとガールズ・ロック・キャンプで演奏してるね。誰でも観られるようなライブではないけど。
エリザベス:つまり、行けば観られるけど、普通のライブみたいに告知してないっていうことだけど。
ガールズ・ロック・キャンプだと、エリザベスもボーカルをとることから女性がフロントのバンドだと考えられているということ?
エリザベス:自分たちでは男女半々どちらもイーブンだと思ってる。ガールズ・ロック・キャンプで演奏するには、メンバーの半分以上が女性じゃないといけないの。キャンプでライブするのは大好き、めちゃくちゃ楽しいの。ジェフも気に入ってるのよ。
本当に? 意外だな。
ジェフ:子どもたちはすごく熱心だからね。もちろんみんながみんなじゃないけど。怖がってる子どももいるし、部屋の隅をじっと見てるだけの子どももいる。でも、大体の子どもはすごくいい反応を返してくれるんだ。子どもたちのエネルギーはちょっと違うし、僕らのことも好きでいてくれるみたい。すごく嬉しいよ。
ちょっと変な質問かもしれないけど、ポートランドみたいな街にとってオール・エイジのシーンって重要だと思う?
ジェフ:ああ、すごく大事だよ。僕らはふたりともダウンタウンにあるスラブタウンってバーで働いてるんだけど、そこのオーナーもオール・エイジのショーができるようにすごく動いてくれているんだ。バックルームを違う会場として使えるようにしてくれたり。ポートランドにそんなバーってないよね。
オール・エイジのショーには違うバイブがあるもんね。アルコールを飲みに行く場所が会場になっていない分、未成年者のほうが熱心だし。ちなみに、みんなにこの質問をしているんだけど、誰もが「もちろん!」って言うね。ただ、誰も不動産を持っているわけじゃないし、OLCC(編注:オレゴン州アルコール統制委員会)とうまくやるのも難しいみたい。
ジェフ:始めるためにはたくさんの関門を乗り越えなきゃいけないもんな。
ええ、18歳の未成年者にアルコールを飲ませられないからね。そうなったらそこでお終い。
エリザベス:確かに。
ジェフ:面白いことに最近、中国で偽造IDがつくれるっていう記事を読んだよ。あるウェブサイトで巧妙につくった偽造IDを手にいれることができるらしい。
ワオ!
エリザベス:聞いたことないわ。
それはすごいね。僕は別に「遵法」の大ファンじゃないし。
ジェフ:ああ、そりゃそうだ。
これからの予定は? 録音やツアー?
ジェフ:今、ミシシッピ・レコーズから出す2枚組LPをつくってるところなんだ。
ワオ、2枚組LPですか。
エリザベス:今まで録音した曲から2曲を除いて全曲入れる予定なの。今年の年末にはなんとか。
あなたたちの曲の長さだと、2枚組LPもどういう分類がされるんだろうね。
エリザベス:50曲ぐらい入る予定なの。
50曲? 本当に?
エリザベス:ええと、ほとんどの曲が2分に満たないから。
ジェフ:1面が20分として4面あるし。
それは最高ですね。ちなみにミシシッピ・レコーズは他にどんな音楽を出してるのかな?
ジェフ:オールド・スタイルのものだね。ブルーズとかワールド・ミュージック。時たま最近のバンドも出すんだ。
自分でプロデュースして録音する方が好き? それとも誰かエンジニアをつけるの?
ジェフ:僕らが入れようとしている曲のほとんどはすでに録音したものなんだ。

家で録った曲もあるんでしょうか。

ジェフ:あのLPは友達のスタジオでやって、夏に他の友達のスタジオで残りをやったんだ。録音は人にやってもらうほうが好きだね。
それはなぜかな?
ジェフ:ええと、全部を自分の好きなようにはできなくなるかもしれないけど、全部自分でやると演奏と録音のふたつに頭を分けなきゃいけないからね。あんまりそういうのに僕は向いてなくって。だから音をよくしてくれそうな人と組む方が好きなんだよね。
それは面白いね。そういえば男女ふたり組のバンド、ホット・ヴィクトリーもそんなようなことを言ってた。
エリザベス:うん、彼らはいいわよね。
音響担当のベンがそう言ってたんだよね。意識をふたつに分けることについて。以前、彼は両方やってたんだ。クレージーなドラムを叩いたあと、どうやって録音するか考えて。手っ取り早いからっていうのがその一番の理由なんだろうけど。さて、そろそろ質問を3つ考えてもらう時間になりました。
エリザベス:どんなバンドにこの質問がされるかもうわかってるの?

アズニー(Usnea)っていうドゥーム・メタル・バンドなんだけど。

エリザベス:ドゥーム・メタル・バンドか。
うん。
エリザベス:そのバンド名は何を表わしてるの、とか。
というと?
エリザベス:そのバンド名が表わしていること……名前を頭文字にしてもらえたらいいなと思って。
ああ、頭文字だったり、あいうえお作文だったり?
エリザベス:バンド名にとらわれ過ぎかもしれないけど。
ジェフ:カネイト……ええと、これは質問って感じじゃないけど、カネイト(編注: Sunn O)))のスティーヴン・オマリーらが結成したドゥーム・バンド。すでに活動停止している)をどう思うか。彼らはアメイジングだけど、肯定的か否定的か。
OK。では、バンド名であいうえお作文をつくってください。それから、カネイトは素晴らしい、イエス or ノー? さて、あともうひとつは?
エリザベス:なんども繰り返し見る夢は?
最高のものでも最悪のものでも?
エリザベス:ええと、いちばん記憶に残っているもの。もしくはいちばん興味深いもの。彼らがこの質問にいちばんフィットしていると思っているもので。



 と、インタビューはこのように終わっています。あらためて面白かったのは、彼らが自分たちはライブ・バンドだと強く自覚していること。ちょっと笑えるような滑稽なところがあって、誰もが参加できるような雰囲気を大事にしていること。また、ある種のジャンルの忠実な信奉者ではなくて、なるべく雑多な音楽の中にいるバンドとして真価を発揮していくような、そんなイメージを自分たちの音楽性に持っているということ。

 以前ジェフの車に乗せてもらったとき、ジェフの働いていたレコード店に遊びに行ったとき、彼がいつもかけていたのはアフリカ音楽とかクンビアとか古いサイケデリックとか、そんなのばっかりだったなと思い出しつつ、さて、その多面体のサッド・ホースのツアーが3週間後から始まります。ぜひ、お近くの会場までいらっしゃってください。本当に彼らのショーは両手を挙げて飛び込んで行きたくなるような、そんな素敵な感覚に渦巻いています。はてさて久しぶりの珍道中がどうなるやら、どうぞお楽しみに!


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