来月、ヘッズからリリースされるローラ・ギブソンというポートランドの女性シンガー・ソングライターのセカンド・アルバム『Beasts of Seasons』のライナーノーツを書いていたのですが、彼女のことを調べていく間にいろいろ面白いモノが繋がっていったのでここで少し。
まず、ぼくが彼女のことを知ったのはファースト・アルバム『If You Come to Greet Me』からだったのですが、そこにはポートランドのバンド、ノーフォーク&ウエスタンの連中がごっそり参加していました。バンドの中心人物であるアダム・セルツァーはタイプ・ファウンドリーという録音スタジオを運営していて、かねてからここで録音されたレコードが大好きだったんですが(M.ウォードの作品とか)、彼らはプロダクション・チームとしてもすごく優秀で、彼の地からホース・フェザーズとかローラ・ギブソン、アリーラ・ダイアンにホワイト・ヒンターランド、ロッホ・ローモンドなど、ザ・ディセンバリスツに代表されるフォーキーなオーケストラル・ポップが続々と登場する制作環境を築いてきたわけです。で、そのことはライナーにも書いたのですが、書ききれなかったことで気になるものがいくつかあったので、それを備忘録としてこちらに書いてみようかな、と。
まずは、ポートランド・チェロ・プロジェクトのこと。『Beasts of Seasons』には、ボーナス・トラックとしてローラ・ギブソンの大名曲「Hands in Pockets」(オリジナルは『If You Come to Greet Me』に収録)をチェロ・アンサンブルとやっているバージョンが収録されているのですが、それが素晴らしくて、調べてみると、このポートランド・チェロ・プロジェクト、世界初の「インディー」チェロ・オーケストラとして、先述したロッホ・ローモンドやホース・フェザーズ、トリステーザのショーン・オギルヴィーがやっているミュゼ・メカニークなどとのコラボレーションなど、面白い試みをしていたのです。また、そのなかには、デュプレックス・プラネットのデヴィッド・グリーンバーガーとの繋がりで知られる3レッグ・トーソの名前もあったり、ちょっと気になる存在なのです。
また、こちらの映像でぶちあたったのがミシシッピ・スタジオ。なんと、ミシシッピ・スタジオというポートランドのライヴ・スペース/録音スタジオの改築現場から、縁のあるアーティストの演奏の様子が続々届けられています。テロップで改築の進捗状況が報告されるのもおかしいんだけど、そのプロジェクトを伝えるこちらのサイトにある「ライヴ・フロム・ザ・レックエイジ(廃墟からの生演奏)」シリーズには、先のローラ・ギブソンやポートランド・チェロ・プロジェクトも登場。そして、その第1弾に、ピート・クレブスというどこかで聞いたような名前を発見したのでした。
このピート・クレブス。1990年代初頭には、あのエリオット・スミスが在籍したヒートマイザーと共にポートランドを代表する「オルタナ」バンドだったヘイゼルの中心人物で、バンド脱退後はソロでシンガー・ソングライターとしての道を進んでいたのは知っていたのですが、いまや、ピート・クレブス・トリオやザ・ストーレン・スウィーツといった超オールド・タイミーなバンドをやっていたんですね。
また、余談ですが、ヘイゼルはダンサー入りのポップ・パンク・バンドという変わったラインナップで(ハッピー・マンデイズ! というよりも、ブルー・エアロプレインズの方が近いか、な)、そのダンサーがフレッド・ネモ。最近はタラ・ジェイン・オニールとのコラボレーションなど、活発に踊り続ける面白いオジサンなのです。さらに、ドラム/ボーカルのジョディ・ブレイルは、ドナ・ドレッシュ、カイア・ウィルソンとその後チーム・ドレッシュを結成し、キャンディ・アス・レコーズを主宰してクイア・コア・シーンを盛り上げた立役者のひとりだったりするので、そちらからヘイゼルのことを知っている人もいるでしょう。
と、行ったこともないのに新旧ポートランドが結びついてハッとした寒い冬の日でした。あ、ハリー・スミスがポートランド出身だということも分かったのも収穫のひとつ、だったな。ともあれ、ローラ・ギブソンの『Beasts of Seasons』、とても良いアルバムだったので、ぜひ聴いてみてください。