アイダとバッハの意外なつながり

すでに知ってらっしゃる方もいるかもしれませんが、いま、9月下旬から予定されているアイダというバンドの初来日ツアーを記念して、スウィート・ドリームスの別冊を絶賛製作中です。

で、そのバンドの第3のメンバーであるカーラ・シックリーという女性ベーシストがいるのですが、彼女のことをいろいろ調べていたところ、「おお!」と驚いたことがひとつあったのでここで。

いつか、原稿にまとめてみたいなと思っていることのひとつに「捏造された音楽」というか、「でっち上げの音楽」というか、そういうのがあって、そこでたまたまP.D.Q.バッハという作曲家にぶつかったことがあるのです。それは苗字からもお分かりのように、ヨハン・セバスチャン・バッハの21番目にあたる末子(1742年生まれ)なのですが、しかし、彼は大バッハに音楽的な手ほどきを受けることが叶わず、父親から残された遺品もカズーがひとつだけという醜いアヒルの子でした。しかも、何を思ってか、師事したのもミュージカル・ソーの発明者(笑)。後に無事、作曲家になってからも、ほとんどが他の作曲家の盗作だった、という体たらく。

しかし、時代がめぐり、彼の膨大な作品は発掘され、ふたたび陽の目を浴びることになるのです。その発掘者こそ、南ノースダコタ大学の教授、ピーター・シックリーでした。シックリー……? カーラ・シックリー? そう。他でもないカーラの父親だったのです(ついでに言えば、当然、カーラがやっていたバンド、ビーキーパーのメンバーである兄のマシューの父親でもある)。

もちろん、このP.D.Q.バッハに関わるすべてはピーターの捏造ですが、その最初のLPである『An Evening with P.D.Q. Bach』がリリースされたのが1965年。その後、何枚も何枚も何枚も作品が出ていますので、ご興味のある方はぜひ。僕にしてもまだ数曲聴いた程度ですが、「セレヌード(もちろんセレナーデ+ヌード)」だの「爆笑ミサ曲」だの「エロティカ変奏曲」だの、その曲名からも内容は推測できるでしょう。また、ピーターはP.D.Q.バッハの作風を3つの時期に分けていてるのですが、それが「初期飛び込み期」「ずぶ濡れ期」「後悔期」というもので……。ここまでくると降参。カーラがアイダに持ちこんだもののひとつに、室内楽風というかバロック風の楽曲がありますが、それは、こういう家庭環境もあったんですな。それに、どこか人を食ったような、一筋縄でいかない展開を彼女が曲に仕掛けるのも親譲りなんでしょう。

また、ピーター・シックリーはクラシックだけでなく、ジョーン・バエズやバフィ・セント・マリーの弦アレンジなどもしていたそう。となると、こういった環境を背負ったアイダというバンドの存在感が、またひとつ広がるかもしれません。

なお、カーラは、オレゴン州ポートランドではじまったロックンロール・キャンプ・フォー・ガールズのニューヨーク版であるウィリー・メイ・ロック・キャンプ・フォー・ガールズの創設メンバーのひとりでもあり、ヴァイス・ディレクターとして日々、忙しく働いています。ちなみにそのキャンプの使命とは「ザ・ロックンロール・キャンプ・フォー・ガールズは、音楽をつくり、実演することで、少女たちの自信につなげようとする非営利団体です。わたしたちは、ワークショップと技術指導を提供することで、少女たちが積極性を身につけ、仲間や教師との相互扶助的なコミュニティをつくり、社会改良と生きる上での知恵を発展できるよう活動しています」というもの。うむ! カーラも「日本のキャンプはいつはじまるのかしら?」って言ってましたが、さて……。

ともあれ、製作中のアイダの別冊、詳しいことはまた後ほど!

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