頭痛薬にまつわる少々頭の痛い話 その1


前々回のエントリーで紹介したロン・リージー・ジュニアのインタビュー(こちら)を訳していて少し気になった部分があった。それはロン・リージー・ジュニアが手がけたアクション人形がタイレノールの販促用につくられていたというところ。で、「あ、そういえばこんなのあったな」とほかに思い出したものがある。

以前タラ・ジェイン・オニールを招聘したとき、多分3回目の来日かな……(今調べてみると、それは2005年5月のことだった)。そのとき、ドラマーのミギー・リトルトン(元アイダ、元ブラッド・オン・ザ・ウォール)が物販商品としてごっそり持ち込んできたCDがあった。それはミギーがやっていたホワイト・マジック(来日の数ヶ月前に脱退したらしい)とアメリカン・アナログ・セットのスプリットCDで、さて、レーベルはどこだろうとジャケットを裏返してみると、そこにはタイレノールのロゴに大きな「アウチ!」のアートワーク、カタログ番号の「OUCH! 5」がレイアウトされていたのだった。ミギーに訊いてみると、どうやら雑誌の付録としてつくったものらしい。元々無料で配っていたものを商品として売ろうとすることに後ろめたさがあったのか、ミギーも余り深くは教えてくれず、こちらも深くは訊かずに物販ブースに並べたのだが、どうやらそのCDもロン・リージー・ジュニアの人形同様、当時のタイレノールの販促キャンペーンである「アウチ!」の一環として、『アーサー』や『スピン』『トキオン』などのヒップな音楽雑誌に添付して配られていたものだったらしい。

当時の僕は勘違いして、てっきり『アウチ!』なる雑誌があって、これはその付録のCDなのだと思っていたが、実際はもっと入り組んでいたようだ。「アウチ!」の広告キャンペーンには、通常の広告だけでなく、雑誌に添付された16ページ程度の小冊子(ジン)もあれば、こういったCDが付録としてつけられることもあったらしい。また、音楽だけじゃなく、アンダーグラウンド映画やエクストリーム・スポーツなど、さまざまな冠イベントも開催されていたようだ。多分、ロン・リージー・ジュニアのコミックが使われたジンもあったのだろう。既にキャンペーンのホームページは閉鎖されているので今となっては全貌を知ることは難しいが、相当大々的なキャンペーンだったに違いない。しかも、2003年あたりから2005年まで2年間に渡ってそのキャンペーンは展開している。念のため、手元にあった『アーサー』のバックナンバーを確認してみたら、2005年3月号の裏表紙に先述したアメリカン・アナログ・セット/ホワイト・マジックの広告が載っていた。これは友達がくれたものでCDがついていなかったせいか、すっかり見過ごしていたようだ。

*閉鎖された「アウチ!」のウェブサイト

ちなみにタイレノールとは、日本でも武田製薬から発売されている鎮痛解熱剤のこと(写真上)。バファリンみたいな、よくある頭痛薬だと思ってもらえればいいだろう。蛇足だが、日本の公式サイト(こちら)にはこんなキャッチコピーが踊っている。「いつも素敵な笑顔でいたい。タイレノールはいつでもどこでものめる頭痛薬」。いかにも仕事ができそうな快活な表情のオフィス・レディが写真に載っていて、まあ、よくある感じのウェブサイトではある。

製薬会社の利益構造がどうなっているのか、ちゃんと調べていないのでわからないが、何気なくテレビを眺めていてもそのコマーシャルの多さから各製薬会社が莫大な広告宣伝費を費やしていることが推測される。2009年度の日本の広告宣伝費上位10社を見てみると、単独広告宣伝費で8位にアステラス製薬(294億7,000万円)が、連結広告宣伝費というところでは6位に第一三共(1,057億4,000万円)がランクインしている。こうした広告宣伝費の多さは、もちろんアメリカだって同じに違いない。なお、タイレノールの販売元であるジョンソン・エンド・ジョンソンは、245億6,700万ドルの売上高を誇る世界の製薬会社中8位(2008年度)の超巨大企業。えーと……、その売上高が日本円でどうなるかはともかく、ウィキペディア(こちら)にも製薬産業の特徴に「付加価値の高い知識集約型の産業であること」とあり、医薬品の製造にあたって国から医薬品製造業の許可が必要であることなどからも、他産業とは違いがいろいろあることがわかるだろう。

そういえば、星新一の『人民は弱し 官吏は強し』にも製薬にまつわる官僚組織との戦いが描かれていたが、一方、マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画『Sicko』に出てくるように、国民皆保険制度成立を阻む米製薬業界のロビイストのことなど、製薬業界ならではの問題点は、周知のようにさまざまに指摘されてきた。

ともあれ、我が身に引き寄せてみれば、そういや薬のノヴェルティ・グッズって子どものときからいろいろ身近にあったな、とのんきな回想もできよう。簡単なところではメモ帳やペン、ティッシュ等々、さらにはミスターコンタックコルゲンコーワのケロちゃん、銭湯にあったケロリンの黄色い桶等々、年齢を問わず、いろいろと思い出すものは多い。


玉川信明の『反魂丹の文化史:越中富山の薬売り』にも、薬売りの携行品としてみやげ品が欠かせなかったことが出てくる。「みやげ品の中でどこでも喜ばれ、日本の子供たちに薬やさんの想い出を印象づけたものに紙風船と絵紙(えがみ)がある。ことに手貼りの紙風船はふくらますと四角になり、周りに薬の品名広告が入っていて、薬の匂いがプンとするのが特徴である」。ほかにも昔のみやげ品として針や塗箸、九谷焼の徳利や盃、急須などがあったことが書かれている。両手がたくさんの景品でふさがり、薬よりもみやげ品の運搬で大変な時代すらあったようだ。

*明治末期の富山の薬売り

なお、絵紙については「子供への紙風船に対して、大人には「絵紙」と呼ばれ多色刷りの版画がお土産の代表でした。江戸末期から売薬のおまけとして配られた絵紙は、描かれた題材も豊富で「今度はどんな絵紙かな」と楽しみにする人も多かったといいます。雑誌もテレビもなかった時代、売薬さんが持って来る色刷りの絵紙は、話題と色彩を満載したカラーグラビア以上の心のときめきを運んだに違いありません」とのこと(社団法人富山県薬業連合会ホームページより)。

時代や国が違っても、薬の宣伝に人形や風呂桶をおまけしたり、絵紙=ジンを配付したり、というのは変わらない、ということだろうか。

続く……。

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