ジュヌヴィエーヴ・カストレイ

 5月の終わりごろ、もうすぐ邦訳が発行される『少女ゴーグル(原題 Susceptible)』のあとがきを発行元のプレスポップに依頼されて書いていると、その数日後、夫のフィル・エルヴラム(マウント・イアリ)の呼びかけでジュヌヴィエーヴ・カストレイ(エルヴラム)の闘病と家計を支えるための募金がはじまりました。その経緯などについてはこちらのポストで案内しましたが、彼女は昨年の春にステージ4にある膵臓癌であることがわかり、それ以来ずっと闘病を続けていたのでした。
 その間、彼女が病気だということは公にされることなく、彼女と親交のある人たちにときどきフィルからその様子を知らせるメールが届きました。そして、ごく稀に本人からメールが来ることもあって、ハワイに家族で旅行したことなどが書いてあり、愛娘アガットちゃんの写真が添付されていました。また、自分のコミック『Susceptible』が邦訳されることを彼女はとても喜んでいました。
 つい先日も日本で彼女と関わりの多かった人たちに声をかけて一緒にプレゼントを送って、そのお礼のメールが彼女から届いたのが6月25日のことでした。彼女が欲しがっていたネオン色のカラフルなスカーフ。そのメールには美しいスカーフを首に巻いた自分の写真が添えられていました。
 結局、彼女とのやりとりはそれが最後となり、7月9日の午後1時にジュヌヴィエーヴ・カストレイは旅立ってしまいました。フィルから送られてきた知らせによると、この1年間、いろいろな治療方法を試してきたこと、化学療法が功を奏することはなく、最終的にはホスピスへ移ることを勧められるような状態だったことが書かれています。穏やかな精神状態でいることが彼女にとっては何よりも大事だったようで、しかし、その内側で彼女が猛烈に死に抗っていたことも添えてありました。

「今日の朝、彼女の両親もこの家にいました。不安を静め、呼吸困難を抑えようと徹夜で看病し、彼女をなだめていました。彼女の両肺は癌の炎症にひどく侵されていました。彼女はハックルベリーのホットケーキが食べたいとリクエストし、僕が用意しましたが、結局、息切れと咳が続く中で三口ほどしか食べられませんでした。ホスピスの看護士がやってきて、ようやく彼女に精神安定剤と鎮痛剤を与えることができました。すみやかな最期でした。数時間のうちに目から力が抜け、虚ろになっていきました。彼女の両親と僕は同じ部屋にいて、彼女の手を握っていました。やがて彼女は良い体勢を見つけ、そして呼吸が遅くなっていきました。そんな不安定な状態でも、彼女が少しでも苦痛から解放されていたらと願います。最期はあっけないものでした。呼吸がだんだんと遅くなり、ついに最期の一息になるのを私たちは見ていました」

 彼女を追悼して、アナコーテス・ミュージック・チャンネルではジュヌヴィエーヴがウォーヴ(Woelv)やオ・パン(Ô PAON)といった名義でこれまでに発表してきた楽曲、彼女が参加した他アーティストの作品などを1週間24時間に渡って流しています。下記リンク先でストリーミング再生できますので、彼女の音楽をこれまで聴いたことがない方もぜひ聴いてみてください。

http://anacortesmusicchannel.com/tune-in/

 また、上記したように彼女のコミック・ブック『Susceptible』が『少女ゴーグル』としてプレスポップより7月末に発行されます。すでに予約受付も始まっていますので、ご興味のある方はどうぞ。カナダ、ケベック州で過ごしたジュヌヴィエーヴの前半生を描いた作品です。決して幸せいっぱいとは言えない彼女の子供時代ですが、だからこそきっと多くの読者の共感を得るだろう力強さがあります。ぜひご一読ください。

http://www.presspop.com/jp/item/3638/

 なお、彼女の作品はこれまでカナダのロワドゥカヴァン(L’Oie de Cravan)とオルタナティブ・コミック・ファンにおなじみのドロウン&クオータリー(Drawn & Quarterly)から出版されてきました。遺作となったのは『Maman Sauvage』という仏語の詩集で、愛娘アガットちゃんがお腹の中にいる数ヶ月間のことを書かれたものだそうです。これは昨年の11月に発行されています。

 今からでもぜひ、生前に彼女がつくった絵やコミック、音楽に触れてください。彼女の作品のほとんどは、日本からでも容易に入手できるはずです。

 彼女から届いた最後のメールの件名には「I am so lucky!」とありました。僕たちも彼女と知り合えたこと、つかの間でも彼女の活動をサポートでき、特別な信頼関係を築けたことをとても幸運だったと感じています。願わくはもっと一緒にいたかったのですが、残念ながらそれは叶わぬ夢となってしまいました。長い闘病でつらく苦しかったことと思います。どうぞ安らかに。そしてご家族の皆さまには心よりお悔やみ申し上げます。

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