青少年のためのザ・ニュー・メンディカンツ講座(The Young Person’s Guide to the New Mendicants)

上のイラストはカトリック教会の托鉢修道士(メンディカンツ)を描いたもの

 さて、ザ・ニュー・メンディカンツのジャパン・ツアー開始まで早いもので1週間、あらためてバンドのこれまでをおさらいしてみようかなと思って特集記事をつくってみました。

 まず、ノーマン・ブレイクがいるティーンエイジ・ファンクラブについてはもう皆さんご存知ですよね。そういえば、2011年のアメリカ映画『ヤング≒アダルト』のテーマ曲となっていたのが彼らの「The Concept」でしたが、その選曲がこれまた絶妙で……ということを耳にしたのはジャド・フェア=ノーマン・ブレイク=テニスコーツの三頭ツアーの神戸公演、会場となった旧グッゲンハイム邸で、懇意にしている編集者の和久田善彦さんに教えてもらったのが最初でした。

映画『ヤング≒アダルト』の日本版予告編。契約で止められているのか件の曲は流れないが、
主人公の女性がカーステレオに入れたカセットから「The Concept」が流れる様子を想像してみよう。

 ヤングアダルト小説のゴースト・ライター、恋も人生もうまくいかない主人公の30代の女性が学生時代につきあっていたボーイフレンドと会うために故郷へと帰っていく。その大人になりきれない彼女が大好きな曲が「The Concept」で、生活のはしばしや道中の車内など至るところでこの曲をかけるわけです。それは、輝いていた、目立っていた、イケてた学生時代=過去の象徴なんでしょう。ちなみにその映画のキャッチコピーは「Everyone gets old. Not everyone grows up.」、つまり「誰もが年をとるけど、誰もが成長するとは限らない」というものでした。

 ノーマン本人にその映画のことを振ってみると「ああ……。観てない(笑)」と素っ気なかったけど(ま、あまりいい気はしないかも)、その神戸の夜、彼が歌う「The Concept」は観客の満面の笑みに支えられて塩屋の町の上に広がっていったのでした。そもそも、ティーンエイジ・ファンクラブという名前もまた皮肉なものです。バンド結成時、ティーンエイジ・ファンクラブのメンバーにティーンエイジャーは誰もいなかったのですから。きっと、そういうところも上記の『ヤング≒アダルト』と逆説的につながったのかもしれませんね。

 余談ですが、バンド名と年齢についてはこんな愉快なエピソードも残っているようです。「ちょっと前、国境を通過するときに検問所で車を停めていたんだけど、係官が来てヴァンの中にどういう人間が乗ってるのか尋ねられたことがあってね。で、運転手が「ティーンエイジ・ファンクラブっていうバンドだよ」って答えたら、係官が当惑して「ティーンエイジ・ファンクラブ? この人ら年金生活者にしか見えないけど…」って」(アメリカの雑誌『Magnet』のノーマン・ブレイクとのインタビューより)

彼女はデニムを着てる
行くところはどこでもね
レコード手に入れてくるって言うんだ
ステータス・クオーのね
オー、イエー! オー・イエー!
「The Concept」より

 それでは、青少年のためのザ・ニュー・メンディカンツ講座を開講しましょう。最後までゆっくりとお楽しみください。


ザ・ニュー・メンディカンツ、
ふたりのシンガー・ソングライターが新天地で乗り出す托鉢修行

文●清水祐也(モンチコン/CON-TEXT)


 かつて『ソングス・フロム・ノーザン・ブリテン』というアルバムをリリースしていたティーンエイジ・ファンクラブのノーマン・ブレイクと、パーニス・ブラザーズのジョー・パーニス。グラスゴーとマサチューセッツを代表する唄心の持ち主ふたりを結びつけたのは、「ガール・フロム・ザ・ノース・カントリー(北国の少女)」だった。


 ティーンエイジ・ファンクラブのサード・アルバム『バンドワゴネスク』がイギリスのヒットチャートを賑わせていた1991年に、アメリカはマサチューセッツ州の片田舎でひっそりと結成されたスカッド・マウンテン・ボーイズ。地元のレーベルから2枚のアルバムをリリースした彼らは、当時グランジからの脱却を図っていたサブ・ポップと契約すると、1996年には生まれ故郷の名前を冠したサード・アルバム『マサチューセッツ』をリリースしている。このアルバムをプロデュースしていたのが、当時リリーズというバンドのメンバーだった、マイク・デミングトム・モナハンのふたり。どうして彼らに白羽の矢が立ったのかはわからないが、実はこの頃、ペイヴメントスティーヴン・マルクマスの大学の同級生、デヴィッド・バーマン率いるシルヴァー・ジューズのレコーディングにスカッド・マウンテン・ボーイズが参加したものの、お蔵入りになってしまったことがあったのだ。そのアルバム『ナチュラル・ブリッジ』は別のマサチューセッツ出身バンド、ニュー・レディエント・ストーム・キングのメンバーをバックに再録されることになるのだが、そこにもマイク・デミングとトム・モナハンのふたりがエンジニアとして参加していたので、もしかしたらそんな繋がりがあったのかもしれない。


ここで1曲、スカッド・マウンテン・ボーイズ、
1996年のアルバム『マサチューセッツ』より「In a Ditch」を聴いてください。

 結局この『マサチューセッツ』を最後にスカッド・マウンテン・ボーイズは解散してしまうのだが、ジョーはすぐさまマイクとトム、そして兄のボブを誘って新バンドであるパーニス・ブラザーズを結成。1998年にはファースト・アルバム『オーヴァーカム・バイ・ハッピネス』をサブ・ポップからリリースし、再始動することになる。先述したニュー・レディエント・ストーム・キングのペイトン・ピンカートンや、マイクやトムと同じリリーズのメンバーで、のちにビーチウッド・スパークスアリエル・ピンクのバックも務めることになるドラマーのアーロン・スパースケが参加したこのアルバムは、ジミー・ウェッブを敬愛するジョーのクラフトマンシップ溢れる傑作だったが、その後も創作意欲の尽きない彼は翌1999年に『チャッパクィディック・スカイライン』、2000年に『ビッグ・タバコ』と、ソロ名義のアルバムを立て続けにリリース。そこに参加していたのが、サブ・ポップのレーベル・メイトでもあるカナダの女性4人組バンド、ジェイルのベーシストだったローラ・スタインで、そのままパーニス・ブラザーズに加入することになった彼女とジョーはほどなく恋におち、カナダのトロントで一緒に暮らすことになる。一方のノーマン・ブレイクもまた、子供たちが大きくなったことをきっかけに、2009年に妻の生まれ故郷であるトロントへ移住。偶然にもふたりの偉大なシンガー・ソングライターが同じ街で暮らすことになったのだが、彼らがお互いの存在に気づくのは、もう少し先のことだった。


 そして2012年、アイ・ワズ・ア・キングというバンドのプロデュースをするため、ノルウェーを訪れていたノーマン。もともとティーンエイジ・ファンクラブの大ファンだったというアイ・ワズ・ア・キングは、ファースト・アルバムに「ノーマン・ブレイク」なる曲を収録しているほどだったが、ティーンエイジ時代に「ニール・ジャング」という曲を書いていたノーマンがそんな彼らからのラブコールを見過ごせるはずもなく、ロビン・ヒッチコックとの共同プロデュースを買って出たのである。そのセッションに参加していたドラマーが、なんとパーニス・ブラザーズの元メンバーだったパトリック・バーカリー。彼からジョー・パーニスのことを紹介されたノーマンは、トロントに戻ると早速ジョーに連絡を取り、意気投合したふたりによって、新バンドが結成されることになる。



 
アイ・ワズ・ア・キングの「Norman Bleik」。
ブレイク(Blake)のスペルを多分ノルウェー風に「Bleik」としているのが面白い。

 最後に加わったのが、ニーコ・ケイスが在籍していたこともあるカナダのオルタナ・カントリー・バンド、セイディーズのマイク・ベリツキー(編注:今回の来日ツアーには残念ながら不参加)。もともとは彼もジョーの奥さんであるローラが在籍したジェイルのドラマーであり、ローラと一緒にパーニス・ブラザーズに参加していたこともある、旧知の友人だ。そんなベテランが集まったスーパー・バンドの名前が「ニュー・メンディカンツ(新しい乞食たち)」だというのも面白いが、そこにはもはや音楽で生計を立てること自体が、施しを受ける物乞いのようなものだという皮肉が込められているのかもしれない。けれども彼らふたりが奏でるハーモニーには、40代にして再びバンドを始めることの、純粋な喜びが溢れている。そこには商店街のアーケードで弾き語りをしているフォーク・デュオのような気のおけなさと、その正体が実は有名なミュージシャンだった時のような、嬉しいサプライズがあるのだ。


ラット・フィンクが登場するセイディーズのご機嫌なアニメーション
日本ではなかなか紹介されることがないが、世界中に熱狂的な支持者がいるのもうなづけるグレイトR&R!

 そんなニュー・メンディカンツが、もうじきあなたの街にもやってくる。1月にリリースされたアルバム『イントゥ・ザ・ライム』からの曲はもちろん、お互いのバンドであるティーンエイジ・ファンクラブとパーニス・ブラザーズのレパートリーや、彼らならではのカヴァー曲まで、時間の許すかぎりたっぷりと披露してくれることだろう。たくさんのリクエストを用意して、たくさんの拍手で迎えよう。

ザ・ニュー・メンディカンツの3人
左からジョー・パーニス、マイク・ベリツキー、ノーマン・ブレイク


 ではここで、今年の頭にリリースされたザ・ニュー・メンディカンツのアルバム『イントゥ・ザ・ライム』から何曲か聴いてみましょう。レーベルはワン・リトル・インディアン、さらに日本盤はボーナス・トラックを2曲追加収録してP-ヴァイン・レコーズからリリースされています。

ザ・ニュー・メンディカンツ
イントゥ・ザ・ライム
発売日:2014年1月29日
レーベル:P-ヴァイン・レコーズ
品番:PCD-93788
定価:2,300円+税

 まずはクラウチング・スタートで駆け抜けていくようなパワー・ポップ・ナンバーの「Shouting Match」から! 

 そしてアルバムのオープナーである「Sarasota」も。その歌い口からもノーマン・ブレイクの人柄が伺えるメロウでテンダーな佳曲です。

 そして3曲目はシングルにもなっている「A Verry Sorry Christmas」を。メロディの端々で重なるジョーとノーマン、ふたりの歌声のハーモニーがこれまた!

 と、ここで紹介するのは以上3曲でとどめますが、ご興味があったらぜひYouTubeなどをバンド名で検索してみてください。そこには世界各地のライブを撮影した映像があがっていて、アルバム収録曲だけではなく、ティーンエイジ・ファンクラブの「Everything Flows」や「I Don’t Want Control of You」に「It’s All in My Mind」、パーニス・ブラザーズの「There Goes the Sun」や「Amazing Glow」、ジョー・パーニスの「Bum Leg」などそれぞれの持ち歌も続々と披露、さらにゴー・ビトウィーンズの「Finding You」などのカバーも交え、とてもとてもリラックスしたアコースティック・セッションの様子を見ることができるのです。

新しい場所のエスケープ感

 バンドというのは「生き物」であるだけに、さまざまな側面を持っている。ぼくがずっと大好きだったバンド、ティーンエイジ・ファンクラブも、もちろんそうだ。数年前からメンバーのひとりノーマン・ブレイクは、地元スコットランドからカナダにひっこしてしまったらしい……けれど、今の「状況」だったら、別にそれで解散ってことはないだろう。音源だってインターネットをとおして普通にやりとりできる時代だし……。さて、そんなノーマンが、パーニス・ブラザーズの中心人物であるジョー・パーニスと組んだこのユニットのアルバムを一聴して、ぼくはすごく「爽やかな」気分になった。90年代から「うたものUSロック」が大好きだった者にとって、ジョー・パーニスはそれを代表する人物のひとりだった。そんな彼も、今はカナダに住んでいるらしい。つまり、これはなぜか「地元」以外の場所に住む、素晴らしいシンガー/ソングライターふたりが「新しい場所」で組んだユニット。だからだろうか、すごくいい意味での「エスケープ感」がある。もし多少なりとも時間に余裕があれば、来日公演、見のがす手はない……と思いますよ!

伊藤英嗣(クッキーシーン編集長)

「メンディ缶」をプシュっと開けて

 ノーマン・ブレイクとジョー・パーニス。まるでお茶と団子みたいに心和む組み合わせ。そして、そんなふたりが仲良く暮らすカナダからやって来てくれるシアワセ。ギター・ポップ、オルタナ・カントリー、フォーク・ロック、友情、笑顔、哀愁、眼鏡……いろいろ詰まった「メンディ缶」をプシュっと開けて、ビール片手に「やっぱり、良いよねー」と語り合える友達を探しにライブに行きたいと思います。

村尾泰郎(音楽ライター)

いてもたってもいられない焦燥感

 ノーマンとジョーのふたりは音楽に長く携わっているベテラン・ミュージシャンだというのに、ギターを初めて手にしたような、喜びと驚きがほとばしっている。「Shouting Match」を初めて聴いたとき、いてもたってもいられないような焦燥感にかられてしまい、あと1週間さえ我慢できないかもしれない……!

多屋澄礼(Twee Grrrls Club)

 そうそう、カバーと言えば、ザ・ニュー・メンディカンツのアルバムにも1曲「By the Time It Gets Dark」というカバーが収録されていたのでした(日本盤にはさらにボーナス・トラックの1曲としてINXSの「This Time」のカバーも!)。この曲は、ストローブスフェアポート・コンベンションフォザリンゲイといったブリティッシュ・フォークの名バンドの一員だったことでも知られるシンガー、サンディ・デニーによるもので、アルバム未収録曲にも関わらず幾つかの編集盤で世に知られ、さらにメアリー・ブラックジュリー・コーヴィントンヨ・ラ・テンゴメアリー・ルー・ロードアイダといったバンドやシンガーにカバーされてきた、それはそれは大変美しい曲なのです。せっかくなので原曲をちょっと聴いてみましょうか。

 で、この曲の歌詞が下のような感じなのですが……。

夕暮れまでには私たち、きっと笑いあってる
まあ、見てましょう
暗くなる時間までに
すべてが変わるから

 ザ・ニュー・メンディカンツの、それも特にライブの様子から思い描くのは、例えばこの曲にあるような夕げに急ぐ家路の風景で、昼間のあれこれはいったん置いておいて楽になればきっとうまくいくんじゃないかというような、穏やかな、そしてささやかな希望のようなもの、だったりするのです。多分この想像はそう大きくズレてないんじゃないかな。

トクマルシューゴと星野源が組んだような

 喩えが間違ってるかもしれないけれど、トクマルシューゴと星野源が組んだような。そんな夢のユニットではないかと思う。ノーマン・ブレイクはもう日本じゃおなじみ、人なつこくもメランコリックな歌を聴かせることにかけては彼の右に出る者はいないと言ってもいいティーンエイジ・ファンクラブのメイン・ソングライター。オレンジ・ジュースの代表曲「Fallig And Laughing」を愛情たっぷりにカバーした2010年ライブの動画を見たときは、このバンドがスコットランドの系譜上にいることをあらためて痛感したものだった。エドウィン・コリンズやロディ・フレイムが続々と新作を出して元気なところを見せてくれている中で、ノーマンやユージン・ケリー、ダグラス・T・スチュワートといった、去年の来日も記憶に新しい彼ら後輩世代のマイペースな頑張りはスコティッシュの底力を見せてくれるものだ。
 それから個人的に嬉しいのがジョー・パーニスの来日。近年、その動向が日本に伝わりにくくなっていたジョーだが、得意の文章力を生かした活動も含め、今もコツコツといい曲を書き続けているアメリカ屈指のメロディ・メイカーだ。スカッド・マウンテン・ボーイズ時代から変わらぬコーラスを軸にした暖かみあるソング・ライティングは、サブ・ポップ・レーベルの後輩たち、シンズやフリート・フォクシーズらに受け継がれている。2000年にパーニス・ブラザーズのプロモーション来日で簡単なライブをやってくれて以来なので、日本での正式なパフォーマンスは何とこれが初めて。あのときは一緒に新宿のタワーレコードのインストア・イベントをやったりしたものだけど……今回はその頃のパーニス・ブラザーズの曲も披露してくれるかも……!と今からワクワクしている。
 まもなく始まるジャパン・ツアー、いい歌、いいハーモニーを求めているすべての音楽ファンに届きますように!

岡村詩野

芳醇なリスナー生活を保証してくれたTFC

 90年代末にトラッシュキャン・シナトラズのスタジオへ遊びに行こうというコトになり、友人らとイギリスの北部を目指す途中、かの音楽都市グラスゴーへ寄り、「ココがティーンエイジやパステルズが暮らす街か」と、感動したものでした。私の20代のスタートはティーンエイジ・ファンクラブのシングル「Star Sign」で盛大に勢いづき、その後の彼らの美メロ/センス抜群のジャケ/揺るぎのない活動、が芳醇なリスナー生活を保証してくれました。いつも、新譜が楽しみで仕方がなかったです。

小田島等(イラストレーター)

こんな大人になりたいなぁ

 ずっと前からこのふたりの歌声に触れるたびに「こんな大人になりたいなぁ」なんて。そしてもう自分もしっかりジジイになったのにまだ「なりたいなぁ」って。
いつまでもいつまでも蒼い気持ちにさせてくれるおふたり。観に行って泣くゾー!

小林英樹

 「こんな大人になりたいなぁ」とは上の小林英樹さんのコメントにある言葉ですが、さて、また映画『ヤング≒アダルト』のキャッチコピーを振り返れば、確かに僕らは年老いていくに違いないでしょう。そして成長できているかどうかもまた怪しいものです。でも、その哀しみや曖昧さには少しだけ楽しみも含まれているような気もしていて、そのひとつに、例えばこういう馴染みの音楽、行きつけの店ならぬ聴きつけの音楽ができていくことがあるんじゃないかと思ったり思わなかったり。

 もちろん特別な日には特別なものがふさわしいでしょう。現代を鮮烈に反映しているようなもの、時代を斬りつけるようなものも必要です。そして多くの人がその難関にチャレンジしていきます。でも、何かそのとっかかりのようなもの、ヒントの幾つかは、こういう普段の聴きつけの音楽に既に芽吹いていることも案外多いのかもしれませんよ。というわけで、ぜひ、いつものお店の暖簾をくぐるように、来週からはじまるザ・ニュー・メンディカンツのライブに足を運んでいただければと思います。

 全国4都市5会場(日程など詳しくはこちらをご覧ください)、さらにノーマン・ブレイクはこちらのライブへのゲスト出演も決まっています。ノーマン・ブレイク、そしてジョー・パーニスのふたりとも、皆さんと会場でお会いするのを心の底から楽しみにしています。どうぞ気軽にふたりに話しかけていただければと。

ノーマン、えらい!

 最初はジャド・フェアとノーマン・ブレイク、その次がグラスゴー・オールスターズといえるノーマンとダグラス・T・スチュワート(BMXバンディッツ)とユージン・ケリー(ヴァセリンズ)、さらに、今回はノーマンとジョー・パーニス(スカッド・マウンテン・ボーイズ~パーニス・ブラザーズ)という、スウィート・ドリームス・プレスとノーマン・ブレイクの友情が続いていなければ実現しえなかった出来事です。
 特に、今回くちをとんがらせて吹聴したいのは、近年は作家としてのキャリアも育んできていたジョー・パーニスがやって来るということ。ふたりがそれぞれグラスゴー、マサチューセッツから引っ越し先のトロントで出逢う偶然がなければありえなかったニュー・メンディカンツの結成があり、スウィート・ドリームス・プレスとノーマンとの信頼関係がなければ、ジョー・パーニスがニュー・メンディカンツとしてやってくるなんて、ありえなかったことでしょう。ウィルコは既に日本で押しも押されぬ評価がありますけど、本国では彼らと同時期に現れた米オルタナ・カントリー/フォーク・ロック・バンドのなかでもとりわけスカッド・マウンテン・ボーイズは愛され、なかでもシンガー・ソングライターとしてのジョー・パーニスの評価は高かったのですから…。ノーマン、えらい。
 英米、大西洋を挟み、ほぼ同世代にオルタナティヴなマージービートとフォーク・ロックをミックスさせる感覚を、あうんの呼吸で共有できるふたりだからこそ、きっときっと楽しませてくれる、そう思うのです。

吉本栄

インディーの網を辿っていくことの面白さ

 私事で恐縮ですが、スウィート・ドリームス・プレスの福田くんとはもう25年くらいのつきあいがある。もともとは同じレコード屋で一緒に働いていた。その後それぞれ好きな音楽を追及していって疎遠になり、ずいぶん永い間彼に会わなかった時期もあるんだけど、僕らの間に共通するのは、ジャンルは多少違えど、インディー・ミュージックの繋がりを辿っていく、みたいなことを誰に言われるともなく続けてきたということで、それが廻りまわって交わり、昨年2013年に一緒の企画をやることになった。僕がケン・ストリングフェロウを招聘し、福田くんがノーマン・ブレイク&ジャド・フェアを招聘した。それぞれのツアーの中で2日間を合体企画としてやった。インディーの音楽の繋がり、人の繋がりというのが網のようであり、辿っていくと、まったく違うところにいてもどこかで交叉することもあるのだと実感できた瞬間であった。
 そのとき、リハ待ちの時間であったり、終演後であったり、少しの時間をノーマン・ブレイクと一緒に過ごして雑談を交わしたりすることができたが、彼は音楽が好きで好きでしょうがないというのがずーっと続いているんだな。ちょっとした暇ができるとギターを弾き歌っているし、音楽の話になると目を輝かせてハイ・テンションで喋りまくる。弾き語りのライブでもこちらが時間制限をしなければ永遠にやりそうな感じがあるし、ティーンエイジ・ファンクラブのバンド・サウンドとはまた違う彼の魅力というのを大いに感じることができた(そのときのレパートリーがまたインディーの繋がりのひとりであるダニエル・ジョンストンの曲が多かったね)。
 そんなノーマンがジョー・パーニスと新しいユニットでまた日本に来るという。ジョー・パーニスには会ったことがないのだけど、パーニス・ブラザーズ、スカッド・マウンテン・ボーイズなどの音の記憶を辿ると、ああ、これはいい組み合わせだな、とすぐに想像することができた。日程が発表になったとき、これはいいライブになるのではないかな、と直感した。後日、アルバムの音を聴かせてもらったのだけど、これはかなりの傑作といえるのではないだろうか。ふたりのいいところをミックスした感じ。インディー界のよくない部分として言われる悪い意味でのお友達感覚などぜんぜん感じない。
 いまの時代、僕が考えている普遍的でいい曲をやろうとしているような人たちが必然的にアンダーグラウンドな存在になってしまうのがなんとも歯がゆいのだけど、これはホント普遍的ないい曲を追及したような盤だと思う。
 ティーンエイジ・ファンクラブのファンであったりパーニス・ブラザーズのファンであったりしたら、これはぜったいに見逃すべきではない。もちろんバンドにはマジックがあって、ソロは敬遠するような人が一定数いる人がいるのは知っているけど(ミック・ジャガーのソロ……うーん……って気持ちもわかるよ、もちろん)、これはそういう感覚とは別の素晴らしい音楽会になるだろう、というのが想像できるよ。そして、上記の2バンドを知らなくてもスウィート・ドリームス・プレスのリリースなどにピンときたことがあったのなら観に行ってはどうだろうか。インディーの網を辿っていくことの面白さ、素晴らしさが解ってもらえるのではないだろうか。

中上マサオ(Target Earth)

 それでは最後はこの曲で締めましょう。ジョー・パーニスのパーニス・ブラザーズで「Overcome by Happiness」。ほろ苦い曲ですが、ジョーのハスキーな歌声はそこに得も言われぬ甘美さを浮かばせてくれのです……。

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