イ・ランのイントロダクション

 さて、少し前からTwitterなどで報じてきましたが、韓国ソウルを拠点に活動するアーティスト、イ・ランのアルバムを2タイトル、この9月にスウィート・ドリームス・プレスからリリースすることになりました。イ・ランは彼女の本名で、漢字で書くと「李瀧」となるのだとか。姓名の順番は日本と同じです。「イ」が姓で「ラン」が名前。つまり親しみを込めて呼ぶならランちゃんでしょうか。英語だと「Lang Lee」と書きます。

 スウィート・ドリームス・プレスが彼女とどうやって知り合ったかについては、今年の2月にポストしたエントリー(こちら)をご覧ください。そこで、新作アルバム『神様ごっこ』の収録曲「世界中の人々が私を憎みはじめた」の心に強く強く残るミュージック・ビデオ(こちら)を紹介しています。今回のアルバムの鍵となるチェロ奏者とふたり、今回のアルバムの録音場所となったソウルの雨乃日珈琲店で撮影されたこの映像は、安易な言葉を寄せつけない傑作です。ぜひ、なんとか集中できる時間をつくって見ていただければと願います。

 ちなみに、実はその2月の時点で僕はソウルに行ったことがありませんでした。が、その後イ・ランの強い勧めもあり(「こちらのレーベルのシャチョーさんに会いに来てください!」)、6月の頭に数日間行ってみたのですが……。いやあ近いんですね。飛行機代も驚くほど安かったし、町も人も妙になじみます。こんなことならもっと早く行っておけばよかった。

 というわけで、その滞在中にイ・ランが所属するソモイム・レコーズのキム・ギョンモさん(ソンキョルっていうバンドをやってるハンサムさん)と会って正式にライセンスの契約を取り決めることができ、ようやくイ・ランの、韓国式に言えば第1集となる『ヨンヨンスン』と第2集の『神様ごっこ』をスウィート・ドリームス・プレスからリリースする手はずとなりました。にしても平壌式冷麺とサムギョプサル、サムゲタンにカルグクスとマンドゥ、マッコリ、焼酎…あぁ。

 とうつつを抜かしている間にも「イ・ランって誰?」という方も多いと思いますので、下に彼女のバイオグラフィーをまとめてみました。これから各作品の紹介を始め、イ・ランのインタビュー記事や、イ・ランと交流のある日韓さまざまな人たちのコメントなど、折を見て紹介していけたらと思っています。9月のリリース、そして、多分その後にやってくるだろうイ・ラン本人のジャパン・ツアーまで、どうぞ末永くおつきあいください。そしてどうぞ彼女の作品と本物の彼女をお楽しみに。イ・ランはいつだって最高なんです。

デビュー・シングル「よく知らないくせに」は
ソモイム・レコーズとPDHレコーズの共同で2011年にリリースされました。

「イ・ランはとてもミステリアスなの。どんなアブノーマルな方法でも、彼女に限ってはうまくいく。作曲しているところを見てたんだけど、そのとき彼女は何度か歌ってたった30分で1曲仕上げてた。もちろん仕上がりも素晴らしくて、そのとき思ったの。「この子何者?」って(笑)」(ユ・ヘミ)

 イ・ランはミュージシャン/シンガー・ソングライター、映画監督でシナリオを書き、これまでに2冊のコミックを上梓した漫画家としても知られています。生まれも育ちも韓国ソウル、子どものころからアーティストになるのが夢で、17歳にして『PAPER』というカルチャー誌に4コマ漫画の連載を始めてしまうような早熟な女の子でした。高校を中退後、ひょんなことから韓国芸術総合学校映像院に進学、そこで彼女は『ペパーミント・キャンディー』を撮った憧れの映画監督イ・チャンドンの教えを受け、そして今ではれっきとしたマルチ・アーティストとして生活しています。
 彼女の音楽活動は2006年、アマチュア増幅器ヤマガタ・トゥイークスター=ハンバのソロ・ユニット)の曲「金字塔」のカバーから始まります。そうして、日記代わりにMacBookのGarageBandで録りためた楽曲を自身のウェブサイトで公開しはじめるとたちまち話題を呼び、友人からそれらの曲をアルバムにまとめることを勧められます。その友達にはパク・ダハム(自身の音楽活動やイベントのオーガナイズのかたわらヘリコプター・レコーズというインディペンデント・レーベルを運営し、日本と韓国の音楽シーンに大きな架け橋を渡す重要人物)という若者もいました。
 彼の奔走が実を結んだのか、いくつか取りつけたオファーの中からイ・ランはソモイム・レコーズを選び、契約します。ちなみにそのレーベルはソンキョルというユニークなシューゲイザー〜フォークトロニカ・ユニットで活動するキム・ギョンモの個人レーベルとして知られていました。
 まず2011年9月にデビュー・シングル「よく知らないくせに」がソモイム・レコーズとパク・ダハムのPDHレコーズの共同でリリースされ、翌年の春にはパク・ダハム、Dydsuと初来日、東京、松本、金沢と公演数こそ多くはなかったものの、各地、盛況のうちにジャパン・ツアーを終えます。
 そして、2012年の夏に待望のファースト・アルバム『ヨンヨンスン』がソモイム・レコーズからリリースされると、韓国の有力ポータル・サイト「Daum.net」は「今月のアルバム」に選出、さらに彼女は全国紙『ハンギョレ』の「2012年最優秀新人」の第3位にノミネートされます。こうして、イ・ランは韓国インディー・フォーク・シーンとびきりのニュー・タレントとして大きな注目を集め、喝采をもって迎えられたのでした。

 その後も、彼女の音楽と姿勢は大きな共感を呼び、彼女は『GQ』『Nylon』『Vogue Girl』『Elle』『Harper’s Bazaar』『Cosmopolitan』など多くのファッション/カルチャー誌や現地メディアで取り上げられるようになりました。そして、たびたび来日しては、自身のソロ・パフォーマンスだけでなく、ヤマガタ・トゥイークスターのミステリアスなダンサーのひとりとしてステージや路上で踊る姿も披露。また、新宿のインフォ・ショップのソファで悠々とタバコをふかし、『アメト−−−ク!』の観覧席で笑っているところもたびたび目撃されています。

2011年、初めてのジャパン・ツアーの金沢公演のフライヤー

「普通は誰もが手本となる音楽があるものだけど、イ・ランにはそれがない。音楽のスタート地点からして違うんだ。そこが彼女の音楽の魅力だと思う。いろんな人が彼女の音楽をいろんな角度から語るのも、それが理由じゃないかな」(チョ・インチョル)

 2016年は彼女にとって多忙な1年となりました。6月にはパク・ダハムが主宰するヘリコプター・レコーズから『新曲の部屋』コンピレーション・アルバム(絵ハガキ・セット+ダウンロード・コード|明日7月14日の正午より10枚だけスウィート・ドリームス・プレス・ストアで販売します。お早めにどうぞ!)を第6回ソウル・レコード・フェアに合わせて緊急リリース。なお「新曲の部屋」はもともと、ホライズン山下宅配便黒岡まさひろ仲原達彦を司会に毎回ゲストを呼び寄せてその場で1曲つくって披露するというシリーズ・イベントでしたが、そのコンセプトを借り受け、イ・ランがその韓国ソウル・バージョンを開催していたのでした(そのゲストのひとりとして本家、黒岡まさひろも出演しています)。
 また、7月には『ヨンヨンスン』から4年ぶりとなる待望のニュー・アルバム『神様ごっこ』(書籍+ダウンロード・コード)がソモイム・レコーズとユアマインド(ソウルのホンデ地区で人気の書店/リトル・プレス)の共同で発表されます。イ・ランの日々の様子や思い出、抱えている問題や創作についてのあれこれを赤裸々に、時折ユーモアを交えて綴られたエッセイは90ページを超え、その韓国オリジナル版は黒い布張りの表紙にタイトルと作者名が活版で押された美しい装丁で発表されます。さらに『ヨンヨンスン』のアコースティック・ポップ路線から一転、曲によってチェロ奏者を迎えた静謐で内省的な作風が強い印象を残す新境地の10曲も含めて、彼女のアーティストとしての葛藤と成長は、読む者、聴く者の胸を締めつけるに違いありません。

 さらに、今秋、日本でもようやく上記2枚のオリジナル・アルバム(『ヨンヨンスン』と『神様ごっこ』)がスウィート・ドリームス・プレスよりそれぞれCD作品として新装リリースされることとなりました。きっと、リリース後に来日ツアーも発表されるでしょう。
 彼女の本当、彼女の本当の嘘、彼女の嘘の本当、気づきやひらめきに満ちたユーモア、飼い猫のジュンイチ、韓国ソウルのおかしなところとおかしな友達、日本と日本の友達のこと、そして、イ・ランと私たち自身のおかしさや悲しみを『ヨンヨンスン』と『神様ごっこ』から受け取っていただければ幸いです。
 ちなみに『ヨンヨンスン』は柴田聡子、『神様ごっこ』は成田圭佑(イレギュラー・リズム・アサイラム)、彼女と親交の深いふたりの文章をライナーノーツとして掲載しています。こちらもどうぞご期待ください。

イ・ランのセカンド・アルバム『神様ごっこ』の韓国オリジナル・バージョンは
本日リリースされる予定です。

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