ローラ・ギブソンの資料漁りをしていたところ、「INDIEFOLKFOREVER」というちょっとイカさない名前のブログに彼女が寄稿した文章を見つけたので、以下に訳出してみました。名作ファースト・アルバム『If You Come to Greet Me』制作時のエピソードと共に、お気に入りの曲や作品を紹介しています。「ノスタルジア」への自覚的な視点など、その独特の創作姿勢の一端に触れることができるのではないでしょうか。にしても実家にあった祖父母の古い手紙を読みながら曲作りをはじめたなんて、ちょっと出来すぎなくらいの話。1ヵ月後に一緒に来日するイーサン・ローズもそうですが、その意識的な懐古趣味の背景が気になります。そう言えば、あのハリー・スミスが生まれたのも、彼らふたりが暮らすオレゴン州ポートランドだったんですよね……。
『If You Come to Greet Me』に入っている曲を書きはじめたのは、1ヶ月間の帰省中、家族と過ごした田舎の小さな町(オレゴン州コキーユ)でのことでした。普段はポートランドに住んでいるのでクリエイティヴな新しい音楽には日々接していますし、それはそれでもちろん素晴らしいことなんですが、時にトゥーマッチに感じられたのも確かです。ポートランドのアパートに手持ちのレコードは置いたまま、私はコキーユの図書館で貸し出し可能な音楽だけに制限してみました。私が聴いたのは昔の音楽のアンソロジーでした。フォーク/デルタ・ブルースの素晴らしいアンソロジーがあって、そこで私はスキップ・ジェイムスやミシシッピ・ジョン・ハート、エリザベス・コットンに出会ったんです。彼らは、私のオールタイム・フェイヴァリットになりました。その生き様はもちろん、彼らのギター演奏を聴きながら、私はいろいろなことを学びました。
コキーユにいた1ヶ月間、私はまた、祖父母が30~40年代にやり取りした手紙を読みながら時間を過ごしました。祖父はその時、航海に出ていたんです。その手紙の束を読み、ふたりが手紙を書いている様子を心に描くと、なぜかスウィング・ジャズやドリーミーなワルツが背景に流れてきました。その手紙にぴったりのBGMは、これまたコキーユ図書館で見つけたビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルドでした。祖父母が実際そのような音楽を聴いていたかどうかはわかりませんが、しかし、それ以外にないような気がしたんです。アルバムに入っている「Nightwatch」は元々、祖父母が残した手紙を読み、ふたりがペンを走らせている様を思い描きながら、その背景に流れる曲を想像して作った曲なんです。自分が生まれる前の音楽を聴いているときに感じる幻影のノスタルジア(ファントム・ノスタルジア)が私は大好きなんです。私の曲はほとんど、ある種のノスタルジアから生まれているといえるでしょう。イノセンス・ミッションはずっと私のお気に入りバンドのひとつでした。ドンとカレンのペリス夫妻は、天性の言語感覚と洞察力を持っているんでしょうね。ハッピーでもありサッドでもあり、どの曲もひと口では括れないのです。ノスタルジアのようでもあるし、何かの憧れのようでもあるし、と同時に甘美なようでも、胸がうずくようでもある。言うなれば、春を待つ冬のようなんです。彼女の書く曲には独特の親密さがあるけど、それも、ロマンティックなものから、わが子を思う気持ちを思わせるもの、神に祈りを捧げるようなものまでとても幅広い。その親密さが何なのか私はいまだにつかめないけど、それでも確かに感じられるんです。友達のひとりがこのアルバムを貸してくれました。ベッドに寝転びながら何度も何度も聴き返したことを覚えています。その時、このアルバムで演奏している人たちに『If You Come to Greet Me』に参加してもらうことになるなんて、まったく予想していませんでした。オーケストレーション/インストゥルメンテーションにおけるアダムとレイチェルのセンスには脱帽。彼らの音楽を聴いたことで、私の中にあったどんなサウンドのレコードを作りたいのかという見方にまったく新しい視点が持ち込まれたんです。私は、ここにあるトランペットとヴァイブの音の虜になって、特にアダムの曲に心をつかまれました。多分、私は映像寄りの人間なので、曲を書いたり聴いたりしていると、小さなサイレント・フィルムが心の中で投影されちゃうんです。彼はきっと、自分の曲が特別な空気感・環境を浮かび上がらせるよう気を使っているんじゃないかしら。ノーフォーク・アンド・ウエスタンを聴くと、頭の中にいつも1枚の絵、ひとつのキャラクターやシーンが浮かんでしまうんです。市バス、埃っぽいサロン、外国の街並み……みたいな。M.ウォードは特に『Transfiguration of Vincent』(アルバム全体として)を。彼の歌声にある別世界のような質感が大好きなんです。それに、彼はもっとよいギター奏者になろうと私をインスパイアした人でもありました。M.ウォードは、私の大きな影響源のひとりなんです。