レコードの「特典」というと、僕の世代だとポスターが定番だった。今でもきっとあるだろう。そういえば、レコード店の店員をしていたとき、よくポスターをきつく巻いて専用の細いビニール袋に入れる作業をやったものだった。
アメリカのインディペンデント・レーベルと頻繁にやりとりをしはじめたのは、僕が『After Hours』を辞めて『Giddy Up』というフリーペーパーをつくっていたころだったと思う。ディスコードやドラッグ・シティ……、当時の好きだったレーベルに連絡をすると、サンプル盤と一緒にプレスリリースやアーティストの写真(いわゆるアー写というヤツです)の紙焼きを送ってくれて、そこにポスターが同封されていることもよくあった。千枚ほど印刷したフリーペーパーをレコード店に置かせてもらっていただけなのに、そんな者にまで音や資料を送ってもらえたことがとても嬉しかった。そういえば、ポリヴァイナルというレーベルの作品をメイルオーダーで買うと、レコードが入っている段ボールに、きっとその倉庫で発送作業をしていた誰かが書いたものだろう「Thanks Norio! Hope You Enjoy!!」みたいな言葉がマーカーで書いてあって、開けてみると大きなガムがいつも入っていたことも思い出す。
かといって別に「特典」が大好きなわけではないし、その有無にかかわらず欲しいレコードは買うけれども、スウィート・ドリームス・プレスで予約のお客さんに特典をつけることはたびたびある。そこに何か哲学みたいなものがあるわけではないし、そもそもマーケティングのためというよりは、単純に直接レーベルで買ってくれた人へのお礼として、正直に告白をすれば、そういう人が数十人でもいれば、普通よりも費用をかけているプレス代やジャケットの印刷代が少しでもまかなえるだろうと、その程度の(でも実は必死な)気持ちしか、そこにはない。
特典がつくことで「商業主義」だと揶揄されたり、以前には「こんなもの要らないから捨てた」みたいなことをSNSで書かれたこともあったが、先述したようなわけなので、いちいちそういう言葉を見て傷ついたりはしない(いや、やっぱり少し傷つくかも……笑)。でも、そこまで傷つかないのはきっと、自分がつくりたい特典をつくっているだけだからだろう。やましさがあったらもっと傷つくかもしれない。
そもそも音楽がレコードの形をとったとき、ジャケットは何も印刷されていない厚紙か、印刷されていたとしてもレコード会社の名前と連絡先ぐらいだったのが(カンパニー・スリーブの元、でしょうか)、何枚かのレコードを収納できる重厚な「アルバム」が現われ(その形は写真用のアルバム同様、書物の体裁がとられていたようだ)、その後、1930年代から、今と同じようなデザインされたジャケットがつくようになったことは「History Record Jacket」みたいな言葉を検索にかければ、いくつもの記述で知ることができるだろう(僕もさっき調べました)。
そのジャケット・アートの初期のパイオニアのひとりとしてアレックス・スタインワイス(Alex Steinweiss)というグラフィック・デザイナーの名前を見つけることは簡単だろうし、板状のレコードになる前の筒型のシリンダー時代のレコードにしたって、エジソンの名前や写真を引いたシールが貼られていたのだから、形のないものを形にするにあたって、なにかの付加価値(という言葉は嫌いだが)として装飾を施したのは、商売上の要請もありつつ、発想の大きな転換でもあって、そこにまたそれ独自の大きな魅力が横たわっていたことは、皆さんも身に覚えがあるだろう。
自分の場合は「ジャケ買い」みたいな言葉こそなかったが、レコード店やレンタル・レコード店に通いはじめた10代はじめのころに引っ張り出したジャケットのアートワークは、今でも覚えているものが多い。新譜の情報を得るには音楽雑誌を見たり、ラジオを聴いたりするぐらいしかなかったが、でも、実際にレコード店に足を運んで、目当てのレコードが並んでいたりすると、それだけで大発見をしたような高揚があって、レコードのジャケットのひとつひとつがどこかに通じる窓のような役割を果たしていたんだなと今でも思う。
そんなわけで、レコードの時代になって100年以上が経った今、リリースするものこそ「最先端の」塩ビ盤ではなくてアルミを蒸着した樹脂製のコンパクトディスクですが、二十代のアーティストが「本のような体裁のジャケット」を希望して、特典としてポストカードをつけるというのも、息の長いフォーマットに対する想いだけでなく、気軽にお土産を渡したい気持ちまでバトンされたようで、とてもいいものだと思ったのでした。
というわけで、11月1日(火)にリリースする浮のアルバム『あかるいくらい』ですが、スウィート・ドリームス・プレスのストアで予約受付を開始しました。ご注文いただいた方には上の3つのポストカードの中から2枚を同封してお送りします。どの2枚になるかは、申し訳ございませんが届いてのお楽しみに。こちらでランダムに選ばせていただきますので、あらかじめご了承ください。
ちなみに上の画像のうち、両脇の2枚の写真はアルバムの写真を手がけている表萌々花さんによるもの。そして、真ん中の1枚は浮(ぶい)こと米山ミサが、あんちゃんという愛犬を自宅で撮影したものになります。デザインもhirokichillさんにお願いして、しっかりとした仕立てのポストカードですので、ぜひお手元にどうぞ。数に限りがありますので、なくなったらごめんなさいね。その時点で終了となります。
ご注文は下のページからどうぞ。10月27日(木)より発送を開始します。