5年前のジャド・フェアの来日には同行者が3人いた。ステージを共にするランバーロブことロブ・エリクソン(ブレクタム・フロム・ブレクダムのケヴィン・ブレクダムのお兄さん)と、そのパートナーのステファニー・マンキンス(来日時はちょうど妊娠中で大変そうだったけど、その後無事に出産。今や立派な二児のママ)。それから、ビデオ・クルーとして一緒にやってきたデーモン・オバニオン。彼は雑誌『Thora-Zine』最盛期を支えたひとりで、テキサス・パンク・シーンに欠かせないひとりだったらしい。さらに、バットホール・サーファーズのギビーとは義兄弟の仲とのこと。「次はギビーの来日をセッティングしてくれよ、な」なんて笑顔で話しかけてくれたことを今でも時々思い出す。そのデーモンは帰国後1年もしないうち、2007年の春に急逝してしまった。そのこともあって、あのジャド・フェアのツアーは強く印象に残ってる。
ジャドとランバーロブが口から奇天烈な音を発し、それをリアルタイムでループさせていく。異常な躁状態のDIYビート音楽。最初の公演は大阪のブリッジだったが、サウンドチェックのとき、最初の数分でびっくらこいてしまってニヤニヤが止まらなかった。ジャド・フェア、何てかっこいい……。
ジャド・フェアとくればハーフ・ジャパニーズ。ハーフ・ジャパニーズは、70年代にジャド・フェアが弟のデヴィッドとはじめたロック・バンドのこと。どんな歌を歌っていたかというと、例えばこんな歌です。
一方のデヴィッド・フェアが書いたエッセイに「ギターの弾き方」というのがある。以前もどこかで紹介した気がするけど、改めてここで訳出してみよう。
ハウ・トゥ・プレイ・エレクトリック・ギター 文●デヴィッド・フェア
僕は独学でギターを習得した。その楽器が持つ「科学」さえ理解すれば、ギターを弾くことなんてなんてことなかったよ。つまり、細い弦は高い音、太い弦は低い音。そして、調弦ペグのほうで弦を押さえると音が低くなる。あと、速く弾きたかったら手を速く動かして、ゆっくり弾きたかったら手をゆっくり動かすこと。これだけわかればもう弾ける。他の人が使ってる和音の押さえ方とか音の名前とか覚えるのもいいけど、それにも限界がある。数年かけてすべての和音を覚えたからって、それがすべてなわけじゃない。むしろ、和音のことなんて考えなければ選択肢は無限に広がるし、たった1日で君はギターをマスターできるんだ。
伝統的にギターには一番上に太い弦が張ってあって、下に行くにつれて細い弦が張られている。でも、思い出してほしいのは、せっかく自分のギターを持ったんだから、自分が好きなように弦を張ればいいということ。僕は、普通に全部違う太さの弦を張るのが好きだけど、兄貴は全部同じ太さの弦を張っていた。そうすれば、もっと簡単になるからね。どの弦を鳴らしても、それが欲しい音なんだ。
ギターのチューニングなんて、そもそもおかしな考えだ。ある位置まで調弦ペグを巻かなきゃいけないってことは、それ以外の位置はすべて間違ってるってことになる。でも、そんなのばかげてる。何で全部誤りになっちゃうんだ? 自分のギターなんだし、それを弾くのは君だろう? どんな音にしようと、すべては君の好きにしていいんだよ。事実、僕は音のためにチューニングなんてしないんだ。僕がペグを巻くのは、全部の弦を同じぐらいの張り方にするため。僕のオススメはエレキ・ギターだね。エレキはボディの共鳴にそれほど頼らないから、ペイントしてもOKだし、アンプのつまみを全部10にしたりできるから、アコースティックよりエレキのほうがずっと幅広い音を手に入れられるからね。弦を軽くたたいただけで窓ガラスがブルブル震えるんだから、アンプのボリュームを10にして弦をバタンとやった日には壁のペンキが剥げちゃうかもしれない。
最初に僕が買ったギターはシルバートーンだった。その後、僕はフェンダーのテレキャスターを買ったけど、どんな種類のギターを買おうが、どのみちネックの片方に調弦ペグがついている限り大差ない。数年前、ネックの反対側に調弦ペグがついてるギターも登場したけどね。弾いたことないから想像でしかないけど、音は別として、どうも見た目がよくないよね。あんなギターを持ってる自分を思い浮かべるだけで馬鹿っぽい。そういうこともプレイに影響しちゃうかも。ギターなんて、馬鹿みたいな気持ちになるために持つものじゃない。僕がそもそも言いたかったのは、片手にピック、片手にギターを持てば、幾ら小さな体の動きでも世界を制することができるってことなんだ。
イイゾ、イイゾ!
ジャドとデヴィッドのフェア兄弟がどこかでひょんなことから拾ったものは、なにも、ふたりだけが特別に持っているものじゃない。例えばこんな風に……。
時にはこんな風に……。
そして、例えばこんな風に。それはつまり、君と自分のために100万のキッスを送ることなんだろう。……なんてね。